原価計算【第4回】直接原価計算という武器 ― 経営判断に使える原価とは何か
ここまで、原価計算の基本構造を説明してきました。
・製造にかかったコストを集計する
・それを製品に振り分ける
この流れが、制度上求められている「全部原価計算」の考え方です。
しかし、経営判断に使う原価としては、これだけでは不十分です。
なぜなら、全部原価計算は外部報告を前提として設計されているからです。
経営の意思決定に使うには、もう一つの視点が必要です。
それが**直接原価計算(限界利益計算)**です。
変動費と固定費に分ける
直接原価計算では、費用をまず次の2つに分けます。
・変動費
・固定費
変動費とは、販売数量に連動して増減する費用です。
材料費、外注費、販売数量に比例する運賃などが該当します。
固定費は、販売数量が増減しても基本的に変わらない費用です。
工場の家賃、管理者の給与、減価償却費などが代表例です。
直接原価計算では、売上高から変動費のみを差し引いて「限界利益」を算定します。
営業利益は、
売上高 − 変動費 − 固定費
で求めます。
最大の特徴は、固定費を製品原価に含めない点です。
在庫が利益を歪める仕組み
全部原価計算では、固定費も製品原価に含めます。
そのため、期末に在庫が残ると、その在庫に含まれた固定費は当期の費用になりません。結果として、利益が増えて見えることがあります。
この構造を、具体的な数値で見てみます。
数値例:在庫がない場合
製品Aの販売価格を1,000円、変動費を300円(材料費200円+外注費100円)とします。
毎月の固定費は30,000円です。
【先月】
生産数量100個、販売数量100個(在庫なし)
直接原価計算
限界利益
(1,000 − 300) × 100 = 70,000円
営業利益
70,000 − 30,000 = 40,000円
全部原価計算
固定費30,000円 ÷ 100個 = 1個当たり300円
製品原価
300(変動費)+300(固定費)=600円
営業利益
(1,000 − 600) × 100 = 40,000円
在庫がない場合、両者の営業利益は一致します。
数値例:在庫が発生した場合
【今月】
生産数量1,000個、販売数量800個、200個が在庫
直接原価計算
限界利益
(1,000 − 300) × 800 = 560,000円
営業利益
560,000 − 30,000 = 530,000円
全部原価計算
固定費30,000円 ÷ 1,000個 = 1個当たり30円
製品原価
300+30=330円
営業利益
(1,000 − 330) × 800 = 536,000円
全部原価計算の方が6,000円利益が多くなります。
この6,000円は、
30円 × 在庫200個 = 6,000円
と一致します。
つまり、在庫に含まれた固定費分だけ、当期利益が増えて見えているのです。
なぜ経営判断では直接原価計算が重要か
制度上は全部原価計算で問題ありません。
しかし、経営判断では次の問いに答える必要があります。
・売れたから利益が出たのか
・作ったから利益が出たように見えるのか
・どの製品が固定費を回収しているのか
・どの取引先が変動費すら回収できていないのか
これらを明確にするには、限界利益を見る必要があります。
売上が大きい=儲かっている
とは限りません。
限界利益がマイナスであれば、その取引は販売するほど会社が負担していることになります。
製品別利益にも影響する
直接原価計算では、製品1個当たり原価は常に300円(変動費のみ)です。
しかし、全部原価計算では、生産量が増えれば増えるほど1個当たり固定費負担額が下がります。
先月は1個当たり600円。
今月は1個当たり330円。
生産量を増やすだけで原価が下がって見える。
これは経営感覚とは必ずしも一致しません。
だからこそ、経営判断には直接原価計算の視点が必要なのです。
データがない場合はどうするか
ここまで読んで「やってみよう」と思っても、データが揃っていない会社は多いでしょう。
顧客別に材料費を管理していない。
労務費をプロジェクト別に記録していない。
中小企業では珍しくありません。
だからこそ、ここから整えていけばよいのです。
・材料や外注費の請求書にプロジェクト名を記載する
・日報にプロジェクト別の稼働時間を書く
・製造部門の費用を科目別に集計する
完璧を目指す必要はありません。
まずは、限界利益が見える状態をつくること。
そこから経営の景色は変わります。
原価計算は経営の武器
原価計算は、単なる会計処理ではありません。
・値付けを戦略的に行う
・儲かる取引に集中する
・赤字事業を早期に見直す
これらを可能にする、経営の武器です。
制度のための原価計算ではなく、
経営のための原価計算を。
この4回シリーズでお伝えしたかったのは、その一点です。
もし「どこから整えればよいかわからない」という方がいらっしゃれば、ぜひ一度ご相談ください。
やりたい管理をお伺いし、最優先で整えるべきデータと取得方法を一緒に考えます。
原価を制する者が、意思決定を制します。
