第6回:【実践編】目標をKPIに分解し、「絵に描いた餅」を「動ける計画」へ
――財務と行動を直結させる「プロセスの見える化」
「今期の売上目標は1億円だ。みんな頑張ろう!」 そう号令をかけても、現場の社員が「具体的に今日、何をすればいいのか」を理解していなければ、その目標は達成されません。経営計画が「絵に描いた餅」で終わってしまう最大の原因は、目標と行動の間に「KPI」という橋が架かっていないことにあります。
今回は、経営計画を成功させるための最重要ステップ「目標のKPI分解」について解説します。
1. なぜ、あえて細かく「分解」するのか?
目標をKPI(重要業績評価指標)に分解する目的は、大きく分けて2つあります。
① 改善の「場所」を特定するため
漠然と「売上が足りなかった」という結果だけを見ても、次の一手は打てません。しかし、プロセスを分解していれば話は別です。 「受注数は目標通りだったが、1件あたりの単価が低かったのか?」 「そもそも見積を提示した数が少なかったのか?」 「さらに遡って、アポイントの数が足りなかったのか?」 どこでつまづいているかが分かれば、やるべき改善策(アクション)は自ずと決まります。
② 現場が「迷わず動ける」ようにするため
売上目標だけでは現場は何をしていいか分かりませんが、「月に20件の新規アポイントを取る」という具体的な指標があれば、動くことができます。分解した指標こそが、現場にとっての「羅列された数字」を「自分の仕事」に変える魔法なのです。
2. 売上の分解:カスタマージャーニーから逆算する
売上を分解するには、顧客が商品を知ってから購入に至るまでの道のり、すなわち**「カスタマージャーニー」**を考えます。
一般的には「認知 → 関心 → 欲求 → 記憶 → 行動」というステップを辿ります。まずは貴社のビジネスにおいて、それぞれの要素でどのような施策(展示会、広告、DM、商談など)を行っているかを書き出し、要素間の遷移率(コンバージョンレート/CVR)を算出します。 データがない場合は、最初は「経験則」や「感覚値」で構いません。
【逆算シミュレーションの手順】
- 目標売上の設定: 例えば「売上1億円」と置きます。
- 単価と数量への分解: 1億円 = 単価100万円 × 100件。
- 逆算による母数の算出: 100件の成約を得るためには、CVRが20%なら「500件の商談」が必要です。500件の商談を作るためには、アポ率10%なら「5000件のリスト」が必要……といった具合です。
ここでも生成AIは強力な味方になります。前提条件を伝えれば、あっという間に複数のパターンでシミュレーションを行ってくれます。
3. コストの分解:製造・物流プロセスの指標を見極める
コスト側も同様に、「材料調達から完成、発送まで」のプロセスに当てはめて考えます。 製造業であれば、各工程で「どの指標が利益に直結するか」を見定めます。
- 材料投入: 歩留まり(材料を無駄にしていないか)
- 切断・抜き: 設備稼働率
- 曲げ加工: 仕掛品在庫量
- 組み立て: 直行率(一発で良品が作れるか)
- 検査・梱包: 不良率
これらの指標が現状どれくらいで、戦略的な打ち手によってどう変化するかをシミュレーションします。「不良率を1%下げれば、最終的な利益がこれだけ増える」という因果関係が見えてくれば、現場の改善活動に俄然、熱が入ります。
4. 「沼」にハマらず、走りながら修正する
この分解作業、厳密にやり始めるとキリがなく、いわゆる「分析の沼」にハマってしまいます。 大切なのは、**「ある程度大雑把でも、大胆な仮定を置いて進めること」**です。
完璧な計画を立てるために時間を使いすぎるより、ある程度の精度で作り上げ、すぐに走り出す方が効率的です。モニタリング(進捗確認)の過程で、現実の数字と乖離があればその都度修正していけばよいのです。経営計画は、一度作って終わりの聖典ではなく、常にアップデートし続ける「生き物」ですから。
まとめ:財務と行動が噛み合う瞬間
目標をKPIに分解する作業は、まさに経営計画の「難所」です。 しかし、ここを乗り越えれば、経営者の頭の中にある「戦略」が、現場の一人ひとりの「今日の行動」へと変換されます。
「売上1億円」という大きな山も、一歩一歩の階段(KPI)に分解すれば、必ず登り切ることができます。
次回は、いよいよ最終回。**第7回:行動計画への落とし込みと、計画の「健康診断」**についてお話しします。完成した計画が「頑張ればできそう」なものか、最後に見極める方法をお伝えします。

