第5回:【目標設定編】「理想」を「現実」に変えるバックキャスト思考
――市場シェアから逆算する、納得感のある数値計画
経営計画を策定する際、最も頭を悩ませるのが「数字」ではないでしょうか。 もちろん、会社には「パーパス(存在意義)」や「ミッション(使命)」、そして「ビジョン(ありたい姿)」といった定性的な指針が不可欠です。しかし、それらを現実のものとして動かしていくためには、具体的で説得力のある「数字の裏付け」が必要になります。
今回は、戦略を具体化するための「経営目標の立て方」について解説します。
1. 「積み上げ」ではなく「逆算(バックキャスト)」で考える
経営目標の立て方には、大きく分けて2つのアプローチがあります。
- フォーキャスト(積み上げ型): 現状の延長線上で、「来年はこれくらい行けそうだ」と積み上げる方法。
- バックキャスト(逆算型): 「5年後、10年後にこうなっていたい」という理想から逆算する方法。
私は、経営計画策定においては断然、②のバックキャストをお勧めしています。 なぜなら、現状の延長線上で考えるフォーキャストでは、発想が今あるリソースの枠内に収まってしまい、会社を飛躍させるような「戦略的な広がり」が生まれにくいからです。
まずは、その会社を誰よりも長く見守ってきた経営者としての直感を信じ、「5年後、10年後はこれくらいの規模になっていたい」という理想の旗を立てることから始めましょう。
2. その目標は「頑張れば達成できる」のか?
理想の数字を掲げたら、次に行うべきは「検証」です。 ここが非常に重要なプロセスになります。なぜなら、あまりに現実離れした達成不可能な目標は、現場のモチベーションを削ぎ、計画を「ただの紙屑」に変えてしまうからです。
その目標が「頑張れば届く」範囲なのかどうかを判断するために、**「市場の広さ」と「シェア」**という2つの尺度を使います。
① 市場の広さ(ドメイン)を特定する
自社が戦っている領域(ドメイン)に、自社の商品を欲しがる人は何人いて、市場全体でいくらのお金が動いているのかを調べます。 ここで大事なのは、戦う場所を間違えないことです。例えば、静岡県内だけで商売をしようとしているのに、全世界の市場規模を調べても意味がありません。「自社が戦う領域」を明確に定義し、その市場が過去・現在・未来とどう推移するかを、金額ベースで調査します。
この調査には、生成AIの活用を強くお勧めします。AIは膨大なネット情報を整理し、効率的に市場予測やトレンドを拾い上げてくれるため、リサーチの時間を大幅に短縮できます。
② 目標シェアを算出する
次に、自社の「シェア(市場占有率)」を考えます。 「経営目標の売上高 ÷ 市場の広さ」を計算すれば、目標達成に必要なシェアが導き出されます。 過去から現在までのシェアの推移と比較して、未来の目標シェアを見たとき、「今の戦略を実行すれば、このシェアを奪うことは可能か?」を自問自答してみてください。
3. 売上増加の「4つのルート」とシミュレーション
目標シェアを現実のものにするためには、売上が増える仕組みを理解しておく必要があります。売上が伸びるパターンは、本質的に以下の4つしかありません。
- 客単価を上げる(1人あたりの購入額を増やす)
- 商品・サービス単価を上げる(高付加価値化)
- 市場が広がる(リピート増や既存市場の拡大)
- 競合からシェアを奪う(新規顧客の獲得、新市場への進出)
前回考えた「強みを生かす戦略」が、この4つのうちどれに該当するのかを整理してください。 その上で、戦略を実行した場合にどの程度の売上増加が見込めるか、**「単価」と「数量」**に分けて考えます。特に「数量」の予測は経験値が必要ですが、前提条件を整理して生成AIにインプットすれば、客観的なシミュレーション結果をすぐに出してくれます。
4. コスト側は「率」から逆算する
売上の目標が立ったら、次はコスト(費用)です。 ここでは、コストを「固定費」と「変動費」に分けて考え、**「売上高に対する比率(率)」**から逆算して見積もります。
売上が伸びる過程で、原価率や販管費率がどう変化するか。もし見積もった利益が、最初に描いた理想の利益に届かないのであれば、それは「売上目標を上方修正するか」「コスト削減の戦略を立てるか」のどちらかを選択すべきタイミングです。ここで再び、戦略の再検討へと戻ることになります。
まとめ:数字と戦略は「往復」して磨かれる
経営目標を数字で立てるプロセスは、決して一度で終わるものではありません。 「理想の数字」を出し、市場データで「検証」し、届かなければ「戦略」を練り直す。この数字と戦略の往復こそが、経営計画に「魂」を吹き込む作業です。
やってみると意外と難しく、頭を使う作業ですが、何度も実践することで「自社の勝ちパターン」が明確に数字として浮かび上がってきます。
次回は、いよいよこれまでの戦略と目標を具体的な行動に落とし込む、第6回:売上目標をKPIに分解し、行動計画を作る方法についてお話しします。
財務と行動がピタリとはまる感覚を、ぜひ体験してください。

