第4回:【戦略実行編】「特徴」を「強み」へ変換し、顧客へ届ける技術

――3つの事例から学ぶ、独自ルートの切り拓き方

前回、私たちは「強み」と「顧客」の棚卸しについて考えました。 今回は、それらを組み合わせて「どうやって強みが生きる道を切り拓くか」、すなわち**「戦略の構築」**についてお話しします。

ここで一つ、皆さんに覚えておいてほしいことがあります。 それは、**「一度決めた強みや顧客を固定する必要はない」**ということです。戦略を練るプロセスの中で、「この特徴は、実は別のターゲットに刺さるのではないか?」と柔軟に組み替えてもいい。強みと顧客は、ジグソーパズルのように凸凹がピタリとはまるまで、何度も試行錯誤してよいものなのです。

今回は、自社の特徴や資産を「強み」へと変換し、見事に顧客へ届けた3つの事例を紹介します。


事例①:K社(製造業)――「持たざる」を最大の武器に変える

K社は、大型設備を持たず、自動化も進んでいないという、一見すると「時代遅れ」に見える製造業でした。一方、業界の標準は「大型機械を導入し、効率的な大量生産でコストを下げる」というもの。競合他社はこぞってこの道を歩んでいました。

しかし、K社には目に見えない資産がありました。それは**「熟練工を多く擁する、風通しの良い社風」**です。彼らはあえて大型設備を入れないという選択をし、そのメリットとデメリットを徹底的に比較しました。

  • 大型設備のメリット: 安く、大量に作れる。
  • 大型設備のデメリット: 一度ラインを決めると仕様変更が難しく、小回りがきかない。

K社は気づきました。「時代の変化が速く、ニーズが多様化している今は、小ロット化が進むはずだ」と。 そこで彼らは、**「大型設備がない=仕様変更が自由自在」**という特徴を「強み」へと変換しました。熟練工のスキルを最大限に発揮し、他社が断るような細かなニーズに応える「多品種小ロット対応」を戦略に据えたのです。さらに、既存のBtoBだけでなく、こだわりを持つ個人向けのBtoC市場にも参入し、収益の柱を増やすことに成功しました。

事例②:I社(建設業)――強みを「言語化」して組織に浸透させる

大型設備の建設を手掛けるI社の特徴は、測量・設計・施工・保守までを自社で一気通貫で行えることでした。 業界の標準は、各工程を別々の会社が請け負う「分業制」です。一気通貫であることは、顧客にとって「窓口が一つで済む」「施工を見据えた無理のない設計ができる」「中間マージンを省き価格を抑えられる」という明確なメリット=強みでした。

しかし、この会社には課題がありました。**「強みが社内で言語化されておらず、営業がうまく伝えられていない」**という事実です。 そこで同社は、強みを徹底的に言葉にすることから始めました。パンフレットを刷新し、営業トークを「一気通貫の価値」を軸に再構成しました。さらに、人事戦略でも「多工程を理解できる人材」を評価する仕組みを導入。 強みが明確に「届く」ようになった結果、売上は右肩上がりに上昇していきました。

事例③:J社(コピー機販売)――「スピード」と「販路」で今すぐを叶える

J社の特徴は、広大な海外販路と、顧客の要望を即座に製品へ反映させる圧倒的な開発スピードにありました。 業界標準も海外展開はしていましたが、J社はリスクを取って海外子会社へ投資を続け、どこの国で何が不足しているかをリアルタイムで把握できる仕組みを作っていました。「A国で余った在庫を、今すぐ不足しているB国へ」という融通が利くことは、顧客の「今すぐ欲しい」に応える最強の武器となりました。

また、開発部門に手厚く人員を割くという意思決定により、顧客の「これがあったらいいのに」を形にするスピードが競合を圧倒していました。「顧客の欲しいものを、誰よりも早くつくれる」というのは、とてつもない強みです。確実に存在するニーズを確実に満たす。このシンプルな戦略により、J社は安定的な成長を実現しました。


重要なのは「業界の当たり前」を疑うこと

3つの事例を見てきましたが、これらをそのまま真似ることは不可能です。なぜなら、真似できてしまうものは、もはや「強み」ではないからです。

ここで皆さんに持ち帰ってほしいポイントは、**「業界標準(当たり前)は何なのか?」**を問い直すことです。 よく「わが社にはこんな最新設備がある」「こんな高い技術がある」と誇る経営者がいますが、それが「業界の標準」であるならば、顧客から見ればそれは「あって当然のもの」であり、選ぶ理由(差別化要因)にはなりません。

戦略をつくる「骨格」の再確認

戦略とは、以下のステップを積み上げた先にあります。

  1. 自社の特徴・資産(目に見えないものも含む)を出す
  2. 業界標準・競合の当たり前を調査する
  3. その「差異」を見つけ、顧客にとってのメリットに変換する
  4. そのメリットを欲する顧客へ、適切な言葉やルートで届ける

「うちには強みなんてないよ」と仰る経営者の方もいますが、公認会計士として多くの帳簿や現場を見てきた私から言わせれば、どんな会社にも必ず「差異」は存在します。

自社の当たり前の中に眠っている宝物を、もう一度探してみませんか?

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