最終回:【完結編】行動計画への結実と、計画の「健康診断」
――「明日、誰が何をするか」が決まったとき、計画に命が宿る
これまで、現状把握から戦略立案、そして目標のKPI分解まで、経営計画の骨組みを一つずつ積み上げてきました。しかし、どれほど緻密な数値計画があっても、それが「誰が、いつ、何をするか」という具体的なアクションに落ちていなければ、組織は1ミリも動きません。
連載の最後となる今回は、計画策定の最終工程である「行動計画(アクションプラン)への落とし込み」と、完成した計画が本当に機能するかを判定する「健康診断」について解説します。
1. 行動計画は「リソース」との格闘である
KPI分解によって、「売上1億円のためには月50件の提案が必要だ」というところまで見えてきました。次に行うのは、その50件を「どうやって実行するか」という行動計画の策定です。
ここで多くの経営者が陥る罠があります。それは、**「現場のリソース(時間・人員・資金)を無視して、理想の行動量を詰め込んでしまう」**ことです。
リソースの突合(フィッティング)
例えば、月50件の提案が必要だと判明したが、現在の営業担当者の人数と移動時間を計算すると、物理的に「月40件」が限界だとわかったとします。このとき、無理に「気合で50件回れ!」と言うのは戦略ではありません。それはただの強要です。
ここで取るべき選択肢は2つです。
- 戦略の修正: 他の顧客セグメントの単価を上げて、提案数を40件で済むように計画を組み替える。
- リソースの拡充: 事務作業をアウトソーシングして営業時間を捻出するか、新たな人員を採用する(ただし、そのコストを数値計画に反映させる必要があります)。
このように、「目標からの逆算(理想)」と「現場の実行リソース(現実)」を戦わせ、その妥協点を見出すプロセスこそが、行動計画立案の本質なのです。
2. 財務と行動を一致させる「コストの裏付け」
行動計画を立てる際、売上を作るための「攻めの行動」ばかりに目が向きがちですが、第6回でお話しした「コスト側のKPI」を改善するための行動も不可欠です。
- 歩留まり改善: 「材料投入ミスを減らすために、治具を改良する」
- 不良率低減: 「検査工程にAIカメラを導入し、判定基準を自動化する」
これらの行動には、必ず「投資(お金)」か「工数(時間)」が発生します。 「改善活動をするけれど、残業代は減らし、設備投資もゼロ」という魔法のような計画は存在しません。具体的な行動を決めたら、それに伴う経費の増減を必ずステップ8(数値算定)にフィ戻って反映させてください。
この「行動」と「財務数値」の往復を繰り返すことで、計画の精度はどんどん高まり、経営者自身の「これならいける」という確信に変わっていきます。
3. 完成した計画の「健康診断」――3つのチェックポイント
数値と行動がすべて出揃ったら、最後にその計画を俯瞰して「健康診断」を行います。以下の3つの問いに、自信を持って「YES」と言えるでしょうか。
① ストレスチェック:それは「頑張れば届く」ものか?
あまりに高い山は、登る前に心が折れます。逆に低すぎる山は、組織の成長を止めます。 「既存事業の維持」という守りの数字と、「戦略的投資による成長」という攻めの数字がバランスよく配置されているか。現場の社員が「大変そうだけど、達成したら最高だ」と思えるワクワク感が10%程度混ざっているのが、理想的な計画です。
② 整合性チェック:数字と行動の因果関係は明確か?
「売上は1.5倍になるが、広告宣伝費も営業工数も変わらない」といった矛盾はありませんか? 公認会計士として多くの計画書を見てきましたが、この整合性が取れていない計画は必ずどこかで破綻します。数字が動く背景には、必ず「人の動き」の変化があるはずです。
③ レジリエンスチェック:最悪の事態を想定しているか?
経営には不確実性がつきものです。「主要顧客からの受注が3割減った場合」や「材料費がさらに2割高騰した場合」といった、リスクシナリオを想定しておきましょう。最悪のケースでも会社を存続させるための「撤退ライン」や「次の一手」が予備計画として存在しているか。これが、計画の「強靭さ」を決めます。
4. 経営計画は「作り終えた日」が「スタートの日」
おめでとうございます。これであなたの手元には、単なる数字の羅列ではない、血の通った「経営計画」が完成しました。
しかし、冒頭でも申し上げた通り、経営計画は聖典ではありません。 市場環境は刻一刻と変わり、予期せぬトラブルも発生します。大切なのは、「計画通りにいかないこと」を責めるのではなく、「計画と実績の乖離(なぜズレたのか)」を分析し、行動を修正し続けることです。
月次決算の数字を見て、「アポ数が足りなかったのか?」「それとも市場の反応が想定と違ったのか?」と、KPIまで遡って振り返る。この**「PDCAサイクルを回すための基準」**こそが、経営計画の真の価値なのです。
結びに代えて:公認会計士として、伴走者として
全7回にわたり、使える経営計画の策定方法をお伝えしてきました。
経営計画を作る作業は、自分たちの弱点と向き合い、未来の不確実性に挑む、非常にエネルギーのいる仕事です。しかし、暗闇の中を勘だけで進む経営と、不完全であっても「地図(計画)」を持って進む経営とでは、数年後の結果に天と地ほどの差が出ます。
私は、静岡の地で挑戦を続ける中小企業経営者の皆様が、この計画という武器を手に、誇りを持って事業を推進されることを心から応援しています。
「数字に強い、そして行動に強い組織」へ。 あなたの会社の新しい章は、この計画書の一行目から始まります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

