第3回:月次決算を「経営の羅針盤」に変える:予実管理と来週の打ち手

議論の場としての月次報告、未来を創る活用法

ここまで、月次決算は「社長の武器」であること、そしてスピードを上げる技術についてお伝えしてきました。

しかし、速い月次決算を手に入れても、それを「見るだけ」では意味がありません。月次決算の本当の価値は、「それを使って何をするか」にあります。

今回は、月次決算を経営の羅針盤として活用し、未来を創っていく方法をお伝えします。

数字を「見る」から「使う」へ

ある会社では、月次決算のスピードは上がりました。でも、社長が数字を見て「ふーん」と言って終わり。何も変わらない日々が続いていたのです。

これは非常にもったいない。せっかく速い月次決算を手に入れたのに、宝の持ち腐れです。

月次決算を「経営の羅針盤」にするには、3つのステップがあります。

ステップ1:現在地を正確に把握する

ステップ2:目的地とのギャップを明確にする

ステップ3:次の一手を決めて実行する

このサイクルを毎月回すこと。これが、月次決算を活用する本質です。

予実管理が経営を変える

「予実管理」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。予算と実績を比較して、差異を分析し、対策を立てるマネジメント手法です。

多くの会社が「うちも予算は立ててるよ」と言います。でも、実際に予実管理ができている会社は少ないのです。

なぜか? それは「予算を立てて終わり」になっているから。

年度初めに「今年は売上10億円、利益1億円を目指そう」と決める。でも、それを月次に落とし込んでいない。だから、毎月の実績が出ても、予算と比較できない。

あるいは、月次予算はあっても、形だけ。「実績が予算より低いね」で終わって、「なぜ低いのか」「どうすれば達成できるのか」まで踏み込まない。

これでは予実管理とは言えません。

真の予実管理とは、こういうものです。

1. 年間予算を月次・部門別に分解する

「年間売上10億円」を、1月800万円、2月900万円...と月次に。さらに、A事業5億円、B事業3億円...と部門別に。こうして初めて、「今月の目標」が明確になります。

2. 実績との差異を金額と率で把握する

「売上が予算1,000万円に対して実績950万円、▲50万円(▲5%)」というように、差異を定量的に捉えます。

3. 差異の原因を特定する

▲50万円の内訳は? 新規顧客が計画の80%だったから▲30万円、既存顧客の単価が下がって▲20万円、という具合に分解します。

4. 対策を立てて実行する

新規顧客獲得のため、来週は営業訪問を20件から30件に増やす。既存顧客へは単価アップの提案を3社に行う。こうした具体的アクションに落とし込みます。

5. 翌月、対策の効果を検証する

実行した対策が効いたのか? 新規獲得は計画通りになったか? PDCAを回します。

このサイクルを毎月、確実に回す。これが予実管理です。

ある製造業の変化

具体的な事例をご紹介しましょう。

ある金属加工業、従業員30名の会社です。社長は60代のベテラン。長年の経験と勘で会社を経営してきました。

でも、ここ数年、利益が出ない月が増えていました。「景気が悪いから」と思っていましたが、実は原因は別のところにあったのです。

この会社、予算がないのです。いや、正確には社長の頭の中にはあるのですが、明文化されていない。だから、実績との比較ができない。

そこで、まず年間の予算を立てました。売上目標、粗利率目標、経費の上限。それを月次に分解し、部門別にも割り振りました。

そして、月次決算のフォーマットを変更。実績だけでなく、予算と差異も一覧で見られるようにしました。

最初の月、こんなことが分かりました。

売上は予算達成率98%でほぼ計画通り

でも粗利率が予算40%に対して実績36%と大幅悪化

原因は、鋳造部門で不良品が多発し、やり直しコストが膨らんでいたこと

これまでは「売上はまあまあだったな」で終わっていました。でも、予実管理をすることで、「粗利率が4ポイントも低い」「鋳造部門に問題がある」という具体的な課題が見えたのです。

社長はすぐに鋳造部門長を呼び、原因を調査。設備の一部が老朽化していることが判明しました。修理に50万円かかりましたが、翌月から不良率が半減。粗利率も39%まで回復しました。

この会社は、その後も毎月10日に予実管理会議を開くようになりました。各部門長が、予算達成状況と課題、対策を報告する。社長はそれを聞いて、必要な支援を決める。

結果、1年後には年間の営業利益が前年比で1.5倍に増えました。売上はほぼ横ばいなのに、です。

社長はこう言いました。

「これまでは、問題が起きてから『なんでだ?』と慌てていた。でも今は、数字が問題を教えてくれる。早めに手を打てるから、大きな損失を防げるんだ」

月次報告会議を「議論の場」にする

月次決算の活用において、私が最も重視しているのが「月次報告会議」です。

多くの会社では、月次報告は「報告して終わり」です。経理担当が数字を説明し、社長が「分かった、ご苦労さん」と言って終わる。これでは何も変わりません。

月次報告会議は、「議論の場」にすべきです。

参加者は、社長、役員、部門長。可能なら税理士も同席してもらいます。

そして、こんな議題で議論します。

議題1:予算達成状況の確認

各部門から、売上・利益の予算達成状況を報告。達成していれば称賛し、未達なら原因を一緒に考える。

議題2:差異の要因分析

予算と実績の差異が大きい項目について、「なぜそうなったのか」を深掘り。表面的な理由で終わらせず、真因を探ります。

議題3:キャッシュフローの確認

現金残高は十分か? 来月の支払いは大丈夫か? 資金繰りの不安がないか確認します。

議題4:来月のアクションプラン

今月の結果を踏まえて、来月何をするか。営業の重点顧客、コスト削減の施策、新規プロジェクトの優先順位など、具体的に決めます。

議題5:中長期の戦略確認

毎月ではなくてもいいですが、定期的に「今の方向性で合っているか」を確認します。市場環境の変化に対応できているか、戦略の修正が必要か、議論します。

重要なのは、「社長が一方的に話す場」ではなく、「みんなで考える場」にすることです。

ある建設会社では、月次報告会議に現場監督も参加するようにしました。彼らは数字を見ながら、「このプロジェクトは予想以上に人件費がかかっている」「あの現場は工期短縮で利益率が上がった」という生の声を共有します。

社長は「現場の実態と数字が繋がって、経営の解像度が上がった」と言います。

私(眞野)が介在する価値

ここで、「税理士や経営コンサルタントの役割」について触れたいと思います。

月次決算の資料は、税理士が作成します。でも、それを「どう読むか」「どう使うか」は、経営者の仕事です。

私のような外部の専門家が介在する価値は、まさにこの「橋渡し」にあります。

価値1:数字の裏にある「意味」を引き出す

「売上が前月比5%減」という数字の裏には、必ずストーリーがあります。「主力商品の需要が落ちた」のか「営業マンが体調を崩して稼働が落ちた」のか。

私は社長と一緒に数字を見ながら、「なぜこうなったと思いますか?」「この数字から何が言えますか?」と問いかけます。すると、社長の中にある「現場の肌感覚」が言語化され、数字と繋がるのです。

価値2:第三者の視点で問題を指摘する

社内だけで見ていると、見落とすことがあります。「いつもこうだから」と当たり前になっている無駄や非効率。

外部の人間である私は、しがらみなく「この経費、本当に必要ですか?」「この部門、利益に貢献していますか?」と問うことができます。

価値3:議論をファシリテートする

月次報告会議では、私がファシリテーター役を務めることもあります。各部門の報告を聞き、質問を投げかけ、議論を深める。社長が言いにくいこともを代わりに聞く。

こうした役割を通じて、会議が単なる報告の場から、建設的な議論の場に変わります。

もちろん、すべての会社に外部専門家が必要なわけではありません。社長自身が数字に強く、社内で十分に議論できるなら、それで十分です。

でも、もし「数字は苦手」「社内だけだと甘くなりがち」と感じているなら、外部の専門家を活用する価値は大きいと思います。

未来を創る月次決算の使い方

最後に、月次決算の「未来志向」な使い方についてお伝えします。

多くの会社では、月次決算は「過去の振り返り」で終わります。でも、本当に価値があるのは「未来へのアクション」です。

使い方1:シミュレーションツールとして使う

「今月この調子だと、年間着地はどうなるか?」をシミュレーションします。

例えば、上半期の実績を見て、下半期の予測を立てる。「このままだと年間利益目標に500万円届かない。では、どうする?」と考える。

ある小売業では、4月時点で「このままだと年間目標の95%しか達成できない」と分かりました。そこで、5月から新商品の投入を前倒しし、営業時間を延長。結果、年度末には目標を103%達成できました。

早めに気づいて手を打てたのは、月次決算で「未来予測」をしていたからです。

使い方2:投資判断の根拠にする

「新しい設備を導入すべきか?」「人を増やすべきか?」といった投資判断。勘だけで決めるのは危険です。

月次決算のデータを使って、「この投資をしたら、粗利が月50万円増える見込み。投資額は300万円だから、6ヶ月で回収できる」というシミュレーションができます。

数字の裏付けがあれば、安心して投資できます。

使い方3:組織の目標設定と評価に使う

部門ごとの予算達成状況を、人事評価に反映させます。「今月は営業部が110%達成、製造部が95%達成」という結果を、賞与や昇進の判断材料にする。

すると、社員も月次決算に関心を持つようになります。「自分たちの頑張りが数字に表れる」「頑張れば評価される」という実感が、モチベーションに繋がります。

使い方4:銀行や投資家へのアピールに使う

融資を受けるとき、銀行は「この会社、ちゃんと経営できているか?」を見ます。

月次決算がきちんと出ていて、予実管理もできている会社は、銀行から信頼されます。「この社長は数字を見て経営している」と評価されるのです。

月次決算で会社の未来を創る

3回にわたって、月次決算の活用法をお伝えしてきました。

第1回では、月次決算は「外部のため」ではなく「社長の武器」であることを。

第2回では、「100点を捨てて速度を取る」技術を。

第3回では、予実管理と議論を通じて「未来を創る」方法を。

すべてに共通するのは、「月次決算は経営を前に進めるツール」だということです。

過去の記録として眺めるのではなく、未来のアクションを決めるために使う。税理士任せにするのではなく、社長自身が主体的に関わる。完璧さにこだわるのではなく、スピードと実用性を優先する。

こうした発想の転換ができれば、月次決算は間違いなく、あなたの会社を変える羅針盤になります。

まずは、翌月10日までに月次決算を出すことを目標にしてみてください。完璧でなくていい。80点でいいから、早く。

そして、その数字を見ながら、「今月はどうだったか?」「来月は何をするか?」を考える時間を15分だけ取ってください。

たったそれだけで、経営が変わり始めます。

月次決算は、過去を記録するものではありません。未来を創るための羅針盤なのです。

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