第2回:なぜ御社の月次決算は遅いのか?「100点」を捨てて「速度」を取る技術
現金主義や概算の活用、重要性に絞った処理、標準的なスケジュール感
前回、月次決算は「社長の武器」であるとお伝えしました。しかし、武器として機能するには、スピードが不可欠です。
「月次決算が出るのはいつですか?」
この質問をすると、多くの経営者から返ってくる答えは「月末締めて、だいたい20日後くらいかな」というもの。つまり、1月の数字が分かるのは2月20日。ほぼ2ヶ月前の情報です。
これでは武器になりません。せっかく作った資料も、タイミングを逃せば「ただの記録」に成り下がってしまいます。
今回は、月次決算のスピードを劇的に上げるための実践的な技術をお伝えします。キーワードは「100点を捨てる勇気」です。
月次決算が遅くなる3つの罠
まず、なぜ月次決算が遅くなるのか。その原因を整理しましょう。
罠1:完璧主義の呪い
「1円単位まで合わせなければ」「すべての証憑を確認してから」「減価償却も正確に計上して」...。こうした完璧主義が、月次決算を遅らせる最大の要因です。
ある卸売業の経理担当者は、毎月末になると2週間かけて請求書と入金の突合作業をしていました。数千件の取引を1件1件チェックし、1円でもズレがあれば原因を究明する。確かに正確です。でも、その作業が終わるのは翌月15日。そこから税理士が資料を作り、社長の手元に届くのは25日。
この会社の社長は、いつも「もう過去のこと」という感覚で数字を見ていました。
罠2:年次決算と同じ精度を求める
月次決算と年次決算は、目的が違います。年次決算は税務申告や株主への報告のため、正確さが最重要。一方、月次決算は経営判断のため、スピードが最重要。
ところが、多くの現場では月次決算にも年次決算と同じ精度を求めてしまいます。減価償却を月割計上し、引当金を厳密に計算し、棚卸資産も毎月実地棚卸。
これでは遅くなるのも当然です。
罠3:「いつも通り」の惰性
「うちは昔からこのやり方だから」「税理士の先生がこの方法でと言ったから」。こうした「いつも通り」が、実は最も危険です。
10年前に決めた処理方法が、今の会社の規模や状況に合っているとは限りません。でも、誰も疑問に思わず、ずっと同じやり方を続けている。
ある製造業では、毎月末に全社員総出で在庫の実地棚卸をしていました。1日がかりの大仕事。しかし、よく考えると主力商品は5つで、全体の在庫金額の80%を占めています。それなのに、年に数回しか動かない商品まで毎月数えていたのです。
「80点の速さ」が「100点の遅さ」に勝つ
ここで発想を転換しましょう。月次決算に100点満点は必要ありません。
経営判断に必要な精度は、実は80点あれば十分なのです。むしろ、100点の正確さで20日遅れより、80点の精度で5日以内の方が、圧倒的に価値があります。
なぜか? 理由は明確です。
理由1:トレンドが見えれば十分
社長が知りたいのは「売上が3,542万円か3,548万円か」ではありません。「売上が前月より上がっているか下がっているか」「予算に対して達成しているか不足しているか」というトレンドです。
多少の誤差は、経営判断にほとんど影響しません。
理由2:早ければ修正が効く
5日で出た80点の数字なら、まだ当月前半。異変に気づいて対策を打つ時間があります。一方、20日で出た100点の数字では、すでに当月後半。対策を打つ余地が限られます。
理由3:習慣化できる
月次決算が早いと、「毎月5日に数字を見て、10日に対策会議」というリズムが作れます。これが習慣になると、経営のPDCAサイクルが回り始めます。
遅いと、「そろそろ出るかな」「まだかな」という待ちの姿勢になり、習慣化できません。
スピードを上げる4つの実践例
では、具体的にどうすれば月次決算を早くできるのか。私が実際に見てきた中で、効果の高かった4つの例をご紹介します。
技術1:現金主義・入金主義を活用する
発生主義で正確に計上しようとすると、締め後の請求書確認や売掛金・買掛金の突合に時間がかかります。
そこで、月次決算では「現金主義」または「入金主義」を採用するのです。
売上は請求ベースで計上、仕入や経費は、月末に請求書が回ってきてないなら稟議ベースで計上
「でも、それだと正確な利益が分からないのでは?」
その通りです。しかし、大きく外れないのであればスピードを重視するべきなのはご理解の通りです。ですので、急に変えるのではなく確認してみる。請求ベースで上げたものと稟議ベースで上げた場合とでどれくらいずれるかテストするんです。そして、経営判断に影響するような利益のずれがなければスピードを重視したほうが良いかと思います。
もちろん、年次決算では発生主義できっちり計上します。月次はあくまで経営判断用の「速報版」と割り切るのです。
技術2:概算を恐れない
完璧な数字にこだわらず、概算で十分な項目は概算で処理しましょう。
減価償却費は年間予定額を12で割って毎月定額計上
水道光熱費は前月実績をそのまま使い、後日精算
外注費は契約金額ベースで概算計上し、請求書が来たら調整
棚卸資産は前月末残高に当月の仕入・売上を加減して推定
「それでいいの?」と思うかもしれません。でも、考えてみてください。
減価償却費が月50万円か52万円か、経営判断に影響しますか? 水道光熱費が2万円違ったところで、売上目標の達成度合いの評価が変わりますか?
ほとんどの場合、答えはノーです。
技術3:重要性の原則を徹底する
すべての取引を同じ精度で処理する必要はありません。金額の大きいもの、経営への影響が大きいものに絞って処理すればいいのです。
私がよく提案するのは「80-20ルール」です。
売上の80%を占める商品・顧客だけ詳細集計し、残りは「その他」でまとめる
経費の80%を占める項目だけ厳密に処理し、小口経費は概算でOK
在庫の80%を占める主力商品だけ実地棚卸し、残りは帳簿ベース
ある小売業では、全300品目のうち、売上上位30品目だけを日次で在庫管理するように変更しました。残り270品目は月次の概算。これだけで、月末の棚卸作業が半日で終わるようになりました。
そして、肝心の在庫金額の誤差は? わずか2%以内。経営判断には全く支障がありませんでした。
技術4:日次・週次で先行管理する
月末にまとめて処理するから時間がかかるのです。日次・週次で少しずつ処理すれば、月末の負担が激減します。
具体的には、こんな工夫ができます。
売上は毎日集計して、エクセルに入力
経費の支払は週次でまとめて記帳
預金残高は毎営業日チェック
主要な請求書は届いた時点で入力
「そんな時間ないよ」と思うかもしれません。でも、実際にやってみると、1日10分程度の作業です。そして、この10分を毎日続けることで、月末の2日間がまるごと不要になります。
トータルで見れば、むしろ時間は短縮されるのです。
理想的な月次決算スケジュール
では、どれくらいのスピード感を目指すべきか。私が推奨する標準的なスケジュールはこうです。
月末締め・翌月5営業日以内に速報版完成
1日(月末翌営業日):現金預金残高確定、売上・仕入の集計
2-3日:経費の集計、概算での減価償却・引当金計上
4日:速報版の月次試算表完成、社長に共有
5-10日:詳細の確認、必要に応じて修正
10日前後:月次報告会議で数字を元に議論
このスケジュールなら、翌月10日の段階で前月の数字を振り返り、当月後半の対策を打つことができます。
「うちは今、20日後だから、5日以内なんて無理」と思うかもしれません。でも、段階的に改善すればいいのです。
第1段階:20日後→15日後(概算を導入)
第2段階:15日後→10日後(日次集計を開始)
第3段階:10日後→5日後(重要性の原則を徹底)
まずは現在行っている月次決算が、経営者のほしい情報に照らしてオーバースペックとなっていにないか?なっているとしたらそれはどこか?の徹底的な調査が必要です。
税理士との協働がカギ
月次決算のスピードアップは、社内だけでは完結しません。税理士との協働が不可欠です。
ただし、ここで注意が必要です。税理士は「正確さ」を重視する職業的性格があります。「概算でいいです」「80点で十分です」と言われると、違和感を持つかもしれません。
そこで、社長から明確に伝えることが大切です。
「先生、月次決算は経営判断のためのものなので、年次決算とは別と考えています。多少の誤差は許容するので、とにかく早く出してほしいんです。正確さは年次決算で確保すればいいので」
こう伝えれば、多くの税理士は理解してくれます。そして、具体的にどこを概算にするか、どこまで簡略化するかを一緒に考えてくれるはずです。
もし、どうしても「それはできない」と言われたら、セカンドオピニオンを検討するのも一つです。月次決算のスピードは、それだけ重要なのです。
「遅い精密さ」より「速い概算」
経営はスピードが命です。完璧な計画をじっくり練るより、80点の計画を素早く実行して修正する方が、結果的に成功率が高い。月次決算も同じです。
100点の精密さで20日遅れより、80点の概算で5日以内。この選択ができるかどうかが、会社の成長速度を左右します。
次回は、「月次決算を『経営の羅針盤』に変える」というテーマで、数字をどう使って経営を前進させるかをお伝えします。スピードが上がった月次決算を、どうやって予実管理や来週の打ち手につなげるのか。ここが最も重要なポイントです。

