第1回:月次決算は「外部のため」ではなく「社長の武器」である

月次決算の本当の目的、税理士任せのフォーマットからの脱却

毎月、税理士から送られてくる月次試算表。ファイルを開いて数字を眺めて、「ふーん、まあこんなものか」と閉じる。そんな経験はありませんか?

私はこれまで数十社の中小企業経営者とお付き合いしてきましたが、月次決算を「本当に使いこなしている」と胸を張って言える社長は、実は驚くほど少ないのです。多くの社長が「税理士に言われたから作っている」「銀行提出用に必要だから」という理由で、形だけの月次決算を続けています。

しかし、これは非常にもったいないと思います。月次決算は本来、経営者にとって最強の武器になりうるものなのです。

月次決算は誰のためのものか?

「うちの月次試算表、正直よく分からないんですよ。数字がずらっと並んでいて、どこを見ればいいのか...」

手元にあったのは、A4で10ページを超える月次資料。勘定科目が細かく分類され、税務申告を意識した完璧なフォーマットでした。確かに税理士の立場からすれば、これは「正しい」資料です。でも、経営判断には全く使えない。

なぜなら、これは「税務署のための資料」であって、「社長のための資料」ではないからです。

多くの中小企業で、月次決算が次のような位置づけになっています。

税理士が作成し、社長に「報告」するもの

過去の実績を正確に記録することが目的

銀行融資や税務調査に備えた「守りの資料」

完璧な数字を追求するため、作成に時間がかかる

しかし、本来の月次決算はこうあるべきです。

社長が経営判断のために「使う」もの

未来のアクションを決めることが目的

会社を成長させるための「攻めの武器」

スピード重視で、翌週には手元にあるもの

この発想の転換ができるかどうかが、会社の成長スピードを大きく左右します。

「正確さ」より「タイムリーさ」が勝つ理由

ある飲食店を経営する社長の事例をご紹介しましょう。

彼の会社では、月次決算が毎月25日頃に出来上がっていました。つまり、1月の数字が分かるのは2月25日。ほぼ2ヶ月前の情報です。

「1月の売上が前年比で15%落ちていますね」

税理士からそう報告を受けたとき、彼は愕然としました。すでに2月も終わりかけている。もし1月初旬にこの傾向が分かっていたら、すぐに販促を打てたはずです。でも今から1月の対策を考えても、時すでに遅し。

経営は生き物です。市場は日々変化し、競合も動き、お客様のニーズも移り変わります。2ヶ月前の「完璧な数字」よりも、1週間前の「だいたい合っている数字」の方が、圧倒的に価値があるのです。

月次決算に正解の「型」はありません。なぜなら経営者が目的達成のために知りたい情報は会社によって違うから。ですので、「月次決算を何のために使うのか」を最初に考えないといけないんです。

税理士任せのフォーマットから脱却する

もう一つ、よくある問題があります。それは「税理士が作ったフォーマットをそのまま使っている」という状態です。

税理士は税務のプロです。正確な決算書を作り、適切な税務申告をサポートすることが仕事。だから、月次試算表も当然、税務の視点で作られます。

勘定科目は税務申告に沿って細分化

減価償却や引当金など、税務上の処理が反映

前期比較や予算対比はあっても、経営判断に必要な分析はない

これらは決して悪いことではありません。ただ、経営者が欲しい情報とは少しズレているのではないでしょうか?

私がよく社長たちに質問するのは、こんなことです。

「社長、この月次試算表で、今月どんな判断をしましたか?」

多くの場合、答えは「特に何も...」です。なぜなら、そこには「判断のための情報」がないから。

経営者が本当に知りたいのは、こういうことではないでしょうか。

売上は目標に対してどうか? このままだと着地見込みは?

利益率が下がっているとしたら、何が原因か?

キャッシュは足りているか? 来月の資金繰りは大丈夫か?

どの商品・サービス・部門が儲かっていて、どこが足を引っ張っているか?

前年同月と比べて、何が変わったのか?

こうした「経営者の問い」に答えるためには、税理士が作る標準的な月次試算表では不十分なのです。

「社長専用の月次決算」を作る

では、どうすればいいのか。答えはシンプルです。

「社長が見たい数字を、社長が見たい形で、社長が使えるタイミングで出す」

これだけです。

具体的には、こんな工夫ができます。

1. 1枚で全体像が分かるダッシュボードを作る

A4用紙1枚に、売上・粗利・営業利益・キャッシュ残高・予算対比・前年対比をまとめる。細かい勘定科目は別資料にして、まずは全体感を掴めるようにする。

2. 部門別・商品別の採算を可視化する

「全社で黒字」でも、実は一部の商品が赤字を垂れ流しているかもしれません。どこで稼いでどこで損しているかが見えれば、打ち手が明確になります。

3. 予算と実績の差異を「理由付き」で把握する

「売上が予算より200万円少ない」だけでは判断できません。「新規顧客獲得が計画の70%にとどまったため」という理由があって初めて、「では営業活動をどう修正するか」という議論ができます。

4. キャッシュフローを重視する

利益が出ていても倒産する会社があります。経営者にとって最も大事なのは「今、お金がいくらあるか」「来月、いくら必要か」という情報です。

月次決算を「使う」経営者の共通点

月次決算を本当に武器にしている社長たちには共通点があります。

自分で数字を追いかけている

丸投げせず、少なくとも売上や粗利の数字は自分で日々チェックしている。月次決算は「答え合わせ」であり、「予想と違うところ」に注目する。

数字から「なぜ?」を考える習慣がある

「売上が下がった」で終わらず、「なぜ下がったのか?」「どの要因が大きいのか?」と深掘りする。そして「では次どうするか?」まで考える。

月次決算を「会議の起点」にしている

数字を見て終わりではなく、必ず幹部と議論する場を設けている。月次決算資料が、翌月のアクションプランを決める材料になっている。

税理士と対等にコミュニケーションしている

「先生にお任せします」ではなく、「こういう数字が見たい」「この分析を追加してほしい」と自分からリクエストする。税理士も、社長の意図が分かれば協力してくれます。

逆に、月次決算を活かせていない社長は、こんな状態です。

月次試算表をメールで受け取っても、開かないことがある

数字を見ても「ふーん」で終わり、何もアクションしない

税理士の説明を受けても、半分以上理解できていない

「数字は苦手だから」と、経理担当や税理士に丸投げ

でも、これは社長のせいではありません。「使える月次決算」になっていないことが問題なのです。

今日からできる第一歩

月次決算を「社長の武器」に変えるために、今日からできることがあります。

ステップ1:自分が見たい数字を3つ決める

売上、利益、現金残高。まずはこの3つでOKです。この3つの数字を、毎月必ずチェックする習慣をつけましょう。

ステップ2:税理士に「こういう資料が欲しい」と伝える

「1枚で全体が分かる資料を作ってもらえませんか?」と頼んでみてください。きっと応えてくれるはずです。もし「それはできない」と言われたら、セカンドオピニオンを検討してもいいかもしれません。

ステップ3:月次の数字を「翌月10日まで」に出してもらう

完璧さは後回しでいいので、まずはスピードを優先してもらいましょう。「ざっくりでいいので早く」と伝えるだけで、税理士の動き方も変わります。…高くなるようなら、作業量を減らすとか交渉の余地はあるかもしれません。

ステップ4:毎月15分、数字を見る時間を確保する

カレンダーにブロックして、「月次決算レビュー」の時間を作りましょう。この15分が、あなたの経営を変えます。

月次決算は「過去の記録」ではなく「未来への羅針盤」

最後にお伝えしたいのは、月次決算は「過去の記録」ではなく「未来への羅針盤」だということです。

確かに、そこに記されているのは過去の数字です。でも、その数字が教えてくれるのは「今、どこにいるのか」「このままだとどこに向かうのか」という現在地と方向性。

そして、それが分かれば「では、どちらに舵を切るべきか」が見えてきます。

月次決算を外部のため、税務署のため、銀行のために作るのをやめましょう。社長であるあなた自身のために、あなたの会社を成長させるために作るのです。

次回は、「なぜ御社の月次決算は遅いのか?」というテーマで、スピードを上げる具体的な技術をお伝えします。100点満点の資料は必要ありません。80点でいいから、早く手元に届く資料の方が、はるかに価値があるのです。

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