守りとは「人を守ること」。会計士が考える、一番温かい内部統制の定義
「内部統制(ないぶとうせい)」という言葉を聞いて、ワクワクする経営者は少ないかもしれません。
「上場企業や大企業がやる、ガチガチのルール作りでしょ?」と思われるのが一般的です。
しかし、私はあえて言いたいのです。
内部統制とは、会社とそこで働く人、そしてお客様という「三者の人生」を守るための、最も温かい仕組みである、と。
内部統制の「もう一つの定義」
一般的に内部統制は、不正やミスを防ぐための「業務のルール」とされます。私が生業としてきた会計監査の世界では、会社に損害を与えない仕組みがあれば、ひとまず「よし」とされます。
しかし、100社以上の現場を見てきた私個人としては、今の時代、それでは足りないと考えています。私が考える内部統制には、2つの側面があります。
- 個人の過ちが業務に支障をきたさない「物理的な仕組み」
- その人の人生そのものを踏み外させない「風土という仕組み」
私が本当に必要だと思うのは、後者の「②人生を守る風土」です。
やはり人間は一人では「弱い」存在であると思っています(私が弱いだけかもしれませんが)。人間だから魔が差すこともあります。でも、組織としてその「魔」が差さないような風土、仕組みを構築できたら、その人の人生も救えることになると思いませんか?
リスクは「スマホ」の影に隠れている
なぜ今、風土が重要なのか。それは、従業員を取り巻くリスクが、一昔前とは一変しているからです。
オンラインカジノやデジタルの依存症リスク。夜遅くまでのゲームによる生産性の低下。これらは、コロナ後のリモートワークの定着やプライバシー意識の高まりにより、外からは非常に見えにくくなっています。
かつてのように毎日顔を合わせ、肩を並べて働いていた時代なら「最近、あいつ顔色が悪いな」「生活が荒れているんじゃないか」と気づけたかもしれません。しかし今は、個人の生活に組織が介入することが難しくなり、「異変に気づけない」という最大のリスクが生まれています。
先進企業の事例に学ぶ「新しい介入」
日経ビジネスの記事では、ユニークな事例が紹介されていました。
- 株式会社KSK: 喫煙者は採用しない、お酌禁止、さらには「飲みませんカード」を配布して若手が無理せず参加できる文化を作っています。
- 穴吹エンタープライズ: 「デジタルデトックス研修」を行い、スマホ依存から離れる時間を設けています。
これらは一見、個人の自由への介入に見えるかもしれません。しかし、健康被害や生産性の低下から社員を守ることは、巡り巡って「企業の繁栄」と「社員の幸せ」に直結します。風土を醸成することもまた、立派な内部統制なのです。
「どういう状況の人」なら、その一線を越えてしまうか
具体的な仕組みづくりを考えるとき、私は2つの視点を大切にしています。
- 「どういう行動をとれるか(How)」: 例えば、顧客の入金口座を勝手に変更できないように承認プロセスを分ける。これは従来の「予防的・発見的統制」です。
- 「どういう状況の人か(Who)」: 私はこちらを重視します。「なぜ、その人は一線を越えようとしたのか?」を考えることです。
もし、ギャンブルで大負けして、誰にも相談できず、お金に困り果てている仲間がいたら。追い詰められた末に魔が差してしまう前に、誰かがその異変に気づくことはできなかったのか。
かつて私自身、仕事の重圧で孤独に陥り、ミスを重ねて自責の念に駆られていたとき、看護師さんのさりげない一言に救われた経験があります 。人は本当に追い詰められたとき、自分から「助けて」とは言えないのです 。
結論:最強の内部統制は「気に掛ける気持ち」
どんなにテクノロジーが進化し、ガチガチの承認フローを作っても、人の「魔」を100%防ぐことはできません。
だからこそ、日頃からのコミュニケーション、他人を気に掛ける風土、コンタクトを取り続ける仕組み。これこそが、不正を防ぐための「最後の砦」であり、最高の内部統制だと私は信じています。
内部統制とは、冷たいルールではありません。「仲間を一人にしない、人生を台無しにさせない」という、組織の優しさの表明なのです。

